金融からゲームセンターへ 急成長の理由は
2025年1月6日 19時48分エンタメ
アニメなど日本のコンテンツの人気を追い風に、アメリカでゲームセンターの事業を拡大している日本の会社があります。
創業したのは外資系金融機関で11年勤務した申真衣さんです。
2018年の創業から約40社をM&Aし、会社の売り上げはことし1000億円を超える見込みです。
社長業をしながら2人の子どもを育て、モデルとしても活動しています。
何が急成長を可能にしたのか聞きました。
(おはBizキャスター 渡部圭司)
申真衣さん
1984年 大阪府生まれ
2007年 東京大学経済学部卒業、ゴールドマン・サックス証券に入社
2016年 金融商品開発部の部長
2017年 マネージングディレクターに就任
2018年 ゴールドマン・サックス証券を退職、ミダスエンターテイメント(今の前身の会社)を共同創業
2020年 社名変更しGENDAに
GENDAとは
2018年に申氏と元イオンファンタジー社長の片岡尚氏(現会長)が共同で創業したエンターテインメント会社。
主力事業はゲームセンター運営。
ほかにもカラオケ運営会社、映画配給会社「ギャガ」などをグループに抱える。
運営するゲームセンターは国内外でおよそ400店舗。
2024年にアメリカで約8000か所にゲームセンターを設置する運営会社を買収し、海外事業に力を入れている。
なぜゲームセンターだったのか
申さんは大学卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。
11年間勤めたあと起業しました。
渡部
なぜ金融業界からエンターテインメントの会社を起業したのでしょうか。
申さん
ゴールドマン・サックスで働きながら起業してみたいという気持ちが膨らんできたんです。
起業家に会ったり投資家に会ったりしている時に共同創業者である片岡尚(現会長)と出会って創業しました。
なぜエンターテインメントかというと、すごく人の根幹に関わるものだと思ったからです。
最近は週休3日の会社も出て余暇が増えていますよね。
そうしたなかでエンターテインメントにはお金が使われるようになってきたと感じていました。
何のエンタメが好きかということはその人自身を現すようになってきていますし、この先の未来もどんどん成長する分野だと思っています。
会社の主要な事業はゲームセンターの運営です。
全国のゲームセンターの数は少子高齢化を背景に減り続けていますが、申さんは市場規模は拡大しているといいます。
申さん
ゲームセンター市場は非常に活況で成長しています。
一昔前のように「不良がいる」というイメージをまだ持っている方もいますが、今は家族で楽しんでもらえる環境ですし、30代40代、場所によってはもっと上の世代の方も来ています。
習慣的にゲームセンターに行く人の割合が増えてきているという実感があります。
成長のカギは日本のコンテンツ力
会社が運営するゲームセンターを訪れるとほとんどがクレーンゲームでした。
売上の7割を占め、成長の原動力となっているといいます。
申さん
クレーンゲームの人気は日本のアニメなどコンテンツの人気によるものが大きいと思います。
景品はこの10年ほどで大きく変わってきました。
以前はみんなが普遍的に好きなキャラクターでしたが最近は本当に旬なものを毎週のように入れ替えています。
例えばK-POPアイドルやユーチューバーの景品、中国のロールプレイングゲームのキャラクターグッズまであります。
韓国のアイドルグループの限定品はかなり長い時間をかけて交渉しました。
それぞれのファンに来てもらえるよう景品を入れ替えることで新鮮な状態を保っています。
渡部
クレーンゲームのブームもいつか終わりがくることになりませんか?
申さん
何か1つのIP(コンテンツ)に依存しないことが大事だと思っています、もちろん、はやりすたりの波がありますが一番人気の景品でも全体に占める割合でみればわずかです。
毎週新しいものを入れ替えていけばゲームセンターの場としての価値は減るどころか増えていく一方ではないかと思います。
ゲームセンターはプラットフォーム
申さんはゲームセンターはコンテンツを届けるプラットフォームだという捉え方をしていました。
例えばアプリを提供するアプリストアや、映画やドラマ作品をネットで配信する動画配信会社のようなコンテンツを届ける「場」だというのです。
申さん
IPはとても大事ですが、それをファンに届けるための顧客接点も非常に大事です。私たちはプラットフォームから事業を拡大したいのです。
クレーンゲームはIPを実物の形でファンの方に届けるプラットフォームで、中身はどんどん入れ替わります。
旬なものそろえて顧客接点を広げていければ、私たちがIPとファンの間をつなぐ大事な機能になれると思っています。
リアルな遊び場であるゲームセンターを大きな規模で持っているとより多くのIPを持てるので、プラットフォーマーとしての役割も果たせると思っています。
目標は世界一のエンタメ企業
会社はこれまでにおよそ40社を買収するなどして成長を遂げ、ことしの売り上げは1000億円を超える見込みです。
「世界一のエンタメ企業になる」という目標を掲げる申さんが今力を入れているのがアメリカ事業です。
去年は全米の約8000か所にゲームセンターを設置する運営会社を買収しました。
申さん
基本的にはアメリカにも日本でみんながかわいいと思うものを持っていきたいと思っています。
アメリカでも日本風の色使いだったり優しい輪郭だったりというIPが何のキャラクターかわからなくてもかわいいと思って遊んでもらえているという実感があります。
日本のコンテンツは本当に強いです。
日本のエンターテインメントの会社が海外に展開する中で私たちもパートナーとなって広げていきたいと思っています。
創業したときから世界一のエンタメ企業になることが目標でした。
アメリカでの事業の規模が拡大し成長の余地を感じています。
これをしっかり仕上げていくことが2025年の一番大きなテーマです。
新型コロナで売上がゼロに
一見、キャリアはすべて順調のように見えます。
しかし起業して2年後、新型コロナの感染拡大で会社の業績は急速に悪化し危機に直面しました。
申さん
やはりコロナはすごく大変でした。
もともと私たちはゲーム機のレンタル事業から始めていたのでお客様も売り上げもゼロになってしまいました。
資金繰りがどんどん詰まっていってこの状態が続くと半年も持たない、会社ってこうして潰れるんだって思いました。
できることも家賃を下げることくらいしかありませんでした。
その時は何とかいろんな金融機関の助けもあって倒産せずにすみましたが、リスクに備えるという感覚を創業から早い時期に身につけることができたかなと今では思っています。
コロナの感染拡大が続く2020年11月。
申さんは大きな決断をします。
自社より売上規模が10倍以上あったセガエンタテインメントのゲームセンター事業を譲り受けることにしたのです。
申さん
ゲームセンター約190店舗がグループに入ってくれたことで会社としてのステップも大きく変わり、戦略として事業をどんどん広げる方向になりました。
渡部
コロナの収束がまだ見えない時期になぜ決断できたのですか。
申さん
いつ収束するかはもちろんわかりませんでした。
金融機関との間でもいろんな約束をしながらのスタートではありましたがエンターテインメントは行きたくて行く、やりたいからやる、ということだと思うのです。
コロナの制限がなくなれば必ずお客様は戻ってくるという確信はその当時からありました。
子育てにモデルも
申さんはプライベートでは10年前に結婚し、2人の子どもを育てています。
さらに働く女性や育児をするママ向けの雑誌でモデルを務め、自身のライフスタイルや考えを発信しています。
そこにあるのは、女性たちのチャレンジを後押したいという思いです。
申さん
女性の経営者は増えてきてはいますがまだ少ないと感じています。
会社を作ること自体はそこまで大変なことではないので、見てもらうことで誰でも起業できるんだと自然な選択肢になるといいなと思っています。
今は人生100年時代と言われています。
年齢を重ねることで「何かができなくなる」というよりも「できないと思い込む」ことのハードルの方が高いのかなと思っています。
何にでもチャレンジできる心さえあれば、何歳になってもどんなことでもできるのではないでしょうか。
(1月7日「おはよう日本」で放送予定)
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